
2025/03/28
【只見線】失敗しない秘境路線の旅。どうやって乗る? 何を見る?
東日本の列車旅で絶景を楽しみたいなら、まずおすすめしたいのが只見線です。福島県の会津若松駅と、新潟県の小出駅とを結ぶ、全長135.2kmのローカル線。阿賀野川水系の只見川に沿って走り、春は雪解けの川の流れ、夏は緑豊かな森、秋には鮮やかな紅葉を楽しめます。そんな只見線に乗りに行くなら、事前準備や見どころをしっかり押さえておきたいもの。この記事を読んで、失敗なく只見線を満喫しましょう!
豪雨災害から復活を遂げた、風光明媚なローカル線

福島と新潟の県境でも人口が特に少ない地域を通ることから、国鉄時代には何度か廃止が検討されたことのある只見線。しかし、沿線は国内でも有数の豪雪地帯で、平行する国道252号の県境付近は、今でも通行止めとなることが。そんな地域のライフラインとして、只見線は大切に守られてきました。
2011(平成23)年7月には、豪雨災害によって会津川口〜只見間が不通に。その期間は11年以上に渡りましたが、地元の人々を中心とした熱心な取り組みによって、2022(令和4)年10月1日に全線復旧。奇跡の復活を果たしました。
会津若松に宿泊しての早朝出発がおすすめ

山と森と川の魅力がたっぷり詰まった只見線ですが、全線を走破する定期列車は1日3往復だけ。時間を有効に使って心ゆくまで楽しむなら、事前のプランづくりが大切です。
例えば、会津若松13時05分発の小出行き427Dは、東京駅を9時40分発の東北新幹線「やまびこ55号」で出発すれば乗れますが、ここは注意が必要。せっかくの会津を乗り換えだけで素通りしてしまうのはもったいないですし、首都圏からの接続の良さから、週末や行楽シーズンのこの時間の只見線は、多くのレールファンや観光客で混雑するのです。
おすすめは、会津若松で前泊して早朝の1番列車に乗ること。ちょっと早起きですが、会津若松6時08分発の423Dに乗れば、只見線らしい、のんびりとした列車旅を楽しめるでしょう。
あるいは、会津若松の散策を楽しんだ後、会津若松17時発小出行き431Dに乗車。会津柳津、会津宮下、早戸といった駅で降りて、温泉宿などに宿泊するのもよいでしょう。会津宮下駅なら、18時22分に到着、翌朝は7時38分発。ゆったりと只見線の旅を楽しめます。
大型連休の時期なら、会津若松〜只見間にトロッコ車両などを使った臨時列車も運行されます。快速「風っこ只見線満喫号」は、国鉄世代のディーゼルカーキハ48形を改造した「びゅうコースター風っこ」による全席指定の臨時快速列車。車体側面が大きく開いたトロッコタイプの観光列車で、只見の風をたっぷり感じることができます。
また、5月からは週末を中心に、キハ110系レトロラッピング車による全席指定の快速列車「只見線レトロ満喫号」も会津若松〜只見間で運転されます。こちらは、昔の列車をイメージした茶色のラッピング車両で、特急列車並みのリクライニングシートを装備した快速です。いずれの列車も全席指定で混み合いますので、えきねっとやみどりの窓口で早めに指定券を購入しておきましょう。
きっぷをオトクに購入しよう
首都圏からの場合、乗車券は会津から只見線をぐるっとまわる片道きっぷを購入するとオトク。例えば東京都区内出発の場合、みどりの窓口で東京都区内発郡山・会津若松・小出経由大宮行きの乗車券を購入すれば10,010円。大宮〜東京間は別途購入が必要ですが、合計10,590円で、東京→会津若松間と会津若松→小出→東京間で別々に購入するよりも1,000円以上安くできます。もちろん、途中下車もできます(都区内の駅を除く)。
事前に食料や飲みものを確保して出発

それでは、会津若松駅から只見線の旅に出発です。乗車前には食料と飲みものを確保しておきましょう。
只見線の列車は、会津坂下、会津川口、只見などの駅で5〜40分程度停車しますが、お店は限られます。6時08分発の列車に乗車する場合は、駅の売店もまだ営業時間前なので、徒歩5分ほどのコンビニエンスストアに寄っておくとよいでしょう。
さて、只見線の列車は4番ホームから発車します。車両はキハ110系またはキハE120形。どちらも向かい合わせのクロスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシートで、バスなどと同じディーゼルエンジンで走る気動車です。キハE120形の方が新しく、窓もきれいで、上段窓は開けることもできます。一方、キハ110系は1990年代に登場したJR東日本を代表する気動車で、昔ながらの落ち着いた旅を楽しめます。

只見線は、会津坂本〜只見間は只見川に沿って走ります。途中何度も川を渡るので、車窓風景は左右どちらの席からでも楽しめますが、晴れた日は小出駅に向かって右側の方が、順光で景色が見やすいでしょう。
会津若松駅を発車した列車はしばらく市街地を走り、西若松駅で会津鉄道と分かれると、阿賀川を渡って広々とした田園風景を進みます。
田園地帯は会津坂下駅で終わり。25‰(1000m水平に進むごとに25mの高低差)という急勾配で崖を登って丘陵地に出ると、ここからが只見線の本番です。
必見! 只見線の象徴「第一只見川橋りょう」

只見線の見どころは、なんと言っても8か所の只見川橋りょうをはじめとする橋りょう群。全部で16か所の橋りょうが、公益社団法人土木学会による選奨土木遺産に認定されています。
この第一只見川橋りょうと、次の第二只見川橋りょうを見晴らせるビューポイントが、只見川右岸(南側)にあります。ビューポイントへの道のりは、会津宮下駅から徒歩30分ほどの「道の駅 尾瀬街道みしま宿」から遊歩道が整備されています。ただし、10分ほどの尾根道をのぼるので、歩きやすい靴と服装で訪れましょう(降雪時には立入禁止となる場合あり。3月1日現在一部区間が立入禁止)。
早朝の列車で到着した人は、平日・土曜なら会津宮下駅から道の駅まで町営バスがあるので、9時台に橋りょうを通過する2本の列車を見ることができます。ただし、帰りは要予約のデマンドバスしかありません。午後まで列車もないので、のんびり歩いて街歩きを楽しむとよいでしょう。
週末は車内でボランティアによる観光案内も

会津宮下駅からは、多くの区間を只見川に沿って走ります。柳津ダム、宮下ダムなどいくつものダムがあるので流れは穏やか。第三・第四只見川橋りょうを過ぎ、水面が一際車窓に近づくと、会津川口駅に到着です。駅舎には金山町観光情報センターがあり、おみやげなどを買うことができます。
ところで、会津若松と小出を13時台に発車する列車では、例年4月から翌年2月にかけての毎週土・日曜・祝日に、会津柳津〜会津川口間と只見〜会津川口間でボランティアによる車内販売と観光案内を行っています。地域の方や、只見線を愛して止まない方からとっておきの只見線話を聞くチャンス。2025年度のスケジュールは未定ですが、X(旧Twitter)で情報発信をされているので、乗りに行く方はチェックしてみることをおすすめします。
会津川口〜只見間は、田子倉ダムの建設資材を輸送する専用線として、1950年代に建設された区間です。この区間も只見川に沿って走りますが、徐々に水際から離れ、山に囲まれたのどかな田園風景の中を進みます。沿線に瓦屋根の家がほとんどないのは、このあたりが有数の豪雪地帯だからです。
本名駅を発車して間もなく渡る第六只見川橋りょうは、目の前(小出に向かって右側)に東北電力本名ダムの堤体がそびえる珍しいロケーションにあります。このダムは1954(昭和29)年に完成した重力式コンクリートダムで、堤体の上を旧国道が通っています。
会津塩沢〜会津蒲生間にある第八只見川橋りょうは、最後の「只見川橋りょう」ですが、この橋だけ只見川を渡りません。断崖絶壁が川に迫り線路を敷くスペースがないため、川の縁を橋りょうで通過しているのです。川は小出に向かって左側。そろそろ只見川ともお別れです。
只見線最大の難所、六十里越トンネル

只見駅では、すべての列車が10分から30分程度停車します。駅前には只見町インフォメーションセンターがあり、地元で採れた野菜やおみやげのほか、「味付マトンケバブ」や「辛みそおにぎり」といった軽食も購入できます。
駅周辺には飲食店もあり、夏期にはレンタカーやレンタサイクルも営業するので、途中下車して日本で3番目の総貯水量を誇る田子倉ダムや、300年前に建造された旧五十嵐家住宅など、周辺の見どころを訪れるのもおすすめです。ただし、午前中に下車すると会津若松方面は14時台、小出方面は16時台まで定期列車がないのでご注意ください。
只見〜大白川間は、六十里越と呼ばれる福島・新潟県境の区間です。1971(昭和46)年に只見線で最後に開業した区間で、冬期には今も国道252号が通行止めとなり、只見線だけが頼りとなります。3,712mの田子倉トンネルと、只見線で最長となる6,359mの六十里越トンネルを越え、隣の大白川駅までは実に20.8km。
ここで注目したいのが、2つの長大トンネルの間にある「謎のホーム」です。これは、2013(平成25)年に廃止された田子倉駅の跡。駅周辺に民家はなく、現役時代は秘境駅として知られました。雪や落石から線路を守るスノーシェッドの中にあるので、今もかつての姿を留めています。田子倉駅跡のスノーシェッドを抜けると、小出駅に向かって左側に田子倉湖もちらりと見えます。
フィナーレは米処・魚沼盆地

新潟県に入り、六十里越トンネルを抜けた列車は、末沢川の源流に沿って山を下ります。沿線には国道のほかはほとんど人口建造物が見えず、よくぞここに鉄道を敷いてくれたなと思うほどです。
末沢川を何度も渡り、只見駅から30分近くかけて大白川駅に到着。まだ民家は少ないですが、駅舎には手打ち蕎麦のお店が入っています。
沿線に集落が現れるのは、次の入広瀬駅付近から。列車は末沢川が合流した破間川(あぶるまがわ)に沿って走り、徐々に谷が広くなって魚沼盆地へ降りていきます。最後の停車駅、藪神駅を発車し、破間川と魚野川が合流する地点で左にカーブしながら鉄橋を渡ると、右から上越線が現れて終点・小出駅に到着します。
只見線は、全線乗り通すと所要時間は約4時間半。長時間に思えますが、日本の原風景とも言うべき里山風景と、美しい只見川の流れをたっぷり楽しめ、時間はあっという間に過ぎていきます。
四季それぞれに、多彩な風景を楽しむことができる只見線。一気に乗り通してもよし、途中下車してのんびり散策や宿泊を楽しんでもよし。みなさんそれぞれのスタイルで、この素晴らしいローカル線を楽しんでください。
- ※記事内の時刻は事前の予告なしで変更になることがありますので、出発前にご確認ください。
取材・文:栗原 景
写真:栗原 景、交通新聞クリエイト
執筆者紹介
栗原 景(くりはら かげり)
1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。
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